令和3年 文月 わかばコラム 

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医療コラム

令和3年 文月 わかばコラム

今回は、院内の取り組みについてのお話です

 「床ずれ」という言葉を聞いたことがある方は少なくないと思います。「寝だこ」と呼ばれることもありました。専門用語では「褥瘡」と言います。
  「褥瘡」は看護の恥、と言われることがあります。体位変換を丁寧に確実にすれば、発生しないとされてきたからです。「褥瘡」は 寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこととされています。

  私たちはふつう、無意識のうちに眠っている間は寝返りをうったり、長時間椅子に座っているときはお尻を浮かせるなどして、同じ部位に長い時間の圧迫が加わらないようにしています。このような動作を「体位変換」といいます。しかし、自分で体位変換できない方は、体重で長い時間圧迫された皮膚の細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、これにより「褥瘡」ができます。また皮膚の表面だけでなく、皮膚の中にある骨に近い組織が傷ついている場合もあります。
     自分で体位変換ができず長期間寝たきりで、栄養状態が悪い、皮膚が弱くなっている(高齢者、排泄物や汗により皮膚のふやけがある、むくみが強い、抗がん剤やステロイドなど薬の副作用で免疫力が低くなっている)人が、圧迫だけでなく摩擦やずれなどの刺激が繰り返されている場合は褥瘡になりやすいといえます。 筆者は、集中治療室で全身状態が不安定で、体位変換ですら血圧が変動する患者の看護をする中で、数時間で水疱形成に至った経験があり、その怖さを実感したことを思い出します。

  かつての褥瘡治療は「洗って」「乾燥させ」「ガーゼ保護」とされていました。今では褥瘡の治癒過程についての研究が進み、傷はウェット(湿潤)が望ましいことがわかっており、傷を感染させず治癒を促進するための様々なドレッシング材(いわゆるハイテクな絆創膏です)が開発され、その治療はグンと進化しました。外用剤と言われる塗り薬も浸出液の多少、感染の有無、壊死組織の有無といった条件を考慮し、最適なものを選ぶことで治癒は促進されます。
    かつては必死になって病棟で看護師が褥瘡と格闘しておりましたが、現在では医師、栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、もちろん看護師も加わった多職種連携チームが結成されている医療機関がほとんどです。かつて、褥瘡をドライヤーで乾かしていた筆者は、間違った治療を一生懸命にしていた恥ずかしい思い出がありますが、「この治療では治らない」と取り組み続けた結果が、今の進歩につながったはずです。
   
    オプジーボで知られる「がん免疫療法」でノーベル賞を受賞した本庶先生の講演で伺った言葉を思いだします。「あなたたちは、新たな治療により不治の病が克服される瞬間に医療に携わり、歴史の目撃者になっている」と。医学の進歩を信じて日々の研鑽に努めることが、いつか来る未来につながると感じております。
  引用文献:日本褥瘡学会 褥瘡の治療について | 日本褥瘡学会 (jspu.org)
 



  • POSTED at 2021年07月08日 (木)